第2回 里山での家探しがはじまる


ていねいな暮らしを求めて那須へ

東京で暮らす僕が地方への移住を目指して国内を巡り、3年。
今年ついに僕と家族が暮らす場所を見つけることができた。
栃木県、那須町。

那須町は東京からのアクセスもよい人気の観光地だ。那須高原と呼ばれる町の西側は、こだわりのカフェやパン屋さんなどが点在し、森の中に別荘住宅が多く見られる。一方東側は生まれ育った地元の人が多く暮らす里山で、田園や畑が広がる、観光客があまり訪れないのんびりとしたエリア。

那須へ引っ越すというと、たいがいの人は別荘地の多い那須高原をイメージすると思うけど、僕が住みたいのは里山だ。
田舎で生活をしたいと思う理由は、ていねいな暮らしをしていきたいから。もちろん東京は好きだし、都会の生活に疲れたから田舎に行きたいわけではない。ただ、これからの人生を楽しい方へ進みたいと思うと、よりリアリティを感じられるのは田舎だと思うようになっていった。

家、食べ物、エネルギーを少しずつ自給的なものにシフトしていくことで、時間に追われるのではなく、時間を作っていくライフスタイルに変えること。また、里山暮らしの知恵を学び、スキルを上げていくことで、楽しみながら生活の実感が得られる暮らしがしたい。そんなことを考えている。

そして手作りの生活を過ごせる場所を求めて、これから頻繁に那須を訪れるつもりだ。

里山でいかに家を探すか

那須は冬場になると、茶臼岳から冷たく乾燥した風が吹き降ろす、那須おろしが吹く。最近の別荘住宅は、暖房設備が整い断熱材がしっかりと充填された建物が多いため、那須おろしをまともに受ける立地でも快適に過ごせる。一方で地元の人が住む昔ながらの日本家屋は、さほど家の気密性が高くない場合がほとんど。山と家の間には必ずといっていいほど防風林があって、強い風が直接家を冷やさないための工夫がみられる。厳しい自然環境で暮らすための、住まいに対するアプローチの違いが面白い。

さて、僕が家を探すにあたり最初に調べたのが、登録された空き家を行政が移住希望者に紹介する、空き家バンク制度の有無。僕もヨメさんも空き家となった家をセルフリノベーションして住みたいと思っていた。ところが実際は、那須町にその制度がなかった。
それもそのはず、空き家バンク制度は不動産業者もない田舎だからこそ必要とされるもの。那須のように別荘住宅を販売する会社の多い地域では、制度が成り立ちにくいのだ。
しかし那須の不動産業者をあたってみても、あるいは田舎物件の雑誌を読んでも自分が欲しいと思う家はあまり見つからない。その多くは中古のログハウスなど、別荘住宅なのだ。

では僕のように里山で暮らしたい場合、家はどのように探せばいいのだろうか。
おそらく里山にある空き家は「物件探し」という感覚では、なかなか見つけることが難しいのだろう。里山の集落は、住民どうしが助け合いながら暮らしている。だから家を探す前に、地域とともに暮らしていくという意識が大切のような気がする。
見ず知らずの人がいきなりやってきて、家を貸してほしいと頼んでもなかなか難しい。地域に何度も足を運び、自分がどういう人間なのかを知ってもらってからでないと「あなたなら家を貸してもいいよ」とはいかないはず。なぜこの土地に住みたいのか、どんな生活をしていきたいのかということが、明確に伝えられるほどいい。こうしたプロセスを、僕は楽しみながら続けていこうと思う。そして、そのうち家を貸していただける大家さんが見つかればいいなと思っている。

出会いから家探しの可能性を広げていく

那須町の東側に、芦野という里山の集落がある。いま、僕とヨメさんが一番気になっている田園の広がる美しい地域。この芦野にある公民館で、とちぎ暮らし体験ツアーのトークセッションがあるというので、足を運んでみた。UターンやIターンで里山に住む移住の先輩の話を聞きながら、希望者が少しでも、移住の実現に向けて前進してもらうためのイベントだ。ゲストには東京から移住して有機農業を営む方、芦野の空き家を改修してカフェをオープンした方など、自分と世代が近い人ばかり。

印象的だったのが、移住の先輩たちが家探しのときに大切にしたこと。
それは大家さんとのコミュニケーション。大家さんの自宅に赴き、目の前で手書きのノートを使いながら自分たちがやりたいことをていねいにプレゼンしたのだそう。自分の気持ちを直接しっかりと伝えることで、大家さんも安心して家を貸すことができるのではないだろうか。

外から眺めているだけでは見えてこない、地域のリアルな情報を知ることができたこのイベント。運がいいことに僕の隣には若い那須町役場の方が座っていた。そして春からふるさと定住課が新設されるという話を聞いた。長年、観光が下支えしてきた那須町も人口の減少傾向にあるそう。ふるさと定住課ができれば、家の改修費の補助金支給など、移住者に優しい行政サービスがスタートするかもしれない。これは期待大!

僕はこのイベントの少し前から、芦野を訪れるようになった。小さなコミュニティだから、面白い活動をしている人と次々に繋がっていく。トークセッションの進行役を務めた友人からは「まだまだ紹介したい人がたくさんいます」と言ってくれている。僕はこうした出会いの中に自分の未来が見えたような気がした。
里山の空き家を探す者にとって、地元の人との繋がりは欠かせない。芦野の友人は今度、自分とヨメさんを連れて空き家を紹介してくれるそう。
まだまだ家探しは始まったばかり。これからもいろんな人と繋がっていきたいと思っている。



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