第3回 空き家探しに行ってきた


里山のあちこちに空き家があった

那須の里、芦野の空き家を拝見するため、芦野に住む友人に案内してもらった。
いよいよ現地での家探し、果たしてどんな家との出会いが待っているのか。

芦野は那須町の中でも本当に小さなエリアで、車で十数分も走れば福島県の白河市に入る。栃木県の端っこにある県境の里山なのだ。
僕とヨメは空き家を訪れるのを心待ちにしていたのだが、最初は2〜3軒くらいの家が見れるのかなと思っていた。ところが実際に友人が車で連れて行ってくれたのは、なんと全部で10軒。車から通り過ぎる家を眺めただけではすぐにはそれと分からないが、実は人が暮らしている民家に混じって、空き家があちこちに点在している。生活道具もそのまま残されていて、昨日まで人が暮らしていたような生活感を残して時間が止まっている。

一番最初に友人の車が止まった家は、後から考えてもこの日一番驚いた場所だったかもしれない。
板塀で囲われた敷地の中に入ると、都心では考えられない広さの庭が広がっていた。見上げるほどの立派な椿や梅の木が、主のいない庭に春のキレイな花を咲かせていた。本当にここ、人が住んでいないの?

敷地には小さな小屋と立派な蔵、そして一番奥に母屋がある。もしこんな家に住むことになったら、いろんな可能性があるだろう。なにしろいくらでも人が呼べそうなくらい敷地は広大だ。日当たりのよさそうな庭にテーブルと椅子を用意して、畑の野菜を使った料理を振る舞う飲食店ができるかもしれない。
あるいは人が集まれるサロンのような場所にしたり、町から人を呼び込んで、地元のおばちゃんが教える郷土料理や里山の知恵を伝えるワークショップを開いたり。今のところ、自分はそうした活動を始める予定はないのだが、とにかく個人だけで独り占めするにはもったいない立派な家だった。

ヨメも「秘密の花園やー!」とか言いながら庭を飛び回っていた。住むことになる家との出会いの瞬間というのは、おそらくこんな感じなのかもしれないと思った。「ここだ、ここしかない!」というひと目ぼれに近い感覚。そこから実際の家の条件面とこちらの希望を照らし合わせていき、折り合いがつけば実現の可能性が大きく近づく。

家探しは目指す生活探し

改修費は別として、もし賃貸ではなく購入するのなら、200〜300万円程で譲り受けることができる家を探していた。ただ、この家の敷地の広さと蔵も含めた建物の数を考えると、もっと金額はかかるはず。いっそ条件を見直してもいいと思えるくらい本当に魅力的だったのだが、最終的には難しいだろうという判断に落ち着いた。

理由は二つ。
ここの集落には、水道が通っていない。生活用水は地下水を井戸でくみ上げて利用することになる。しかもすぐに利用できる井戸ならばまだいいが、人が住まなくなって時間が経っているので、井戸の復旧工事や現在の水質調査が必要になる。下水がないので個別の浄化槽を用意する必要もあるかもしれない。芦野は水道が通っている集落と地下水を利用する集落がある。ネットインフラはほぼ問題ない芦野だが、水の問題を検討する必要があるのだ。

生活をすべて自給で賄っている人の暮らしを見聞きすると、ステキだしすごいなーと思う。だから自分も自給的な暮らしを思い描くのなら、地下水をくみ上げる生活もありなのではと思ったこともある。これにはまだ自分の中で結論が出ていないが、いまのところ水道水は必要だと思っている。家の中まで地下水を引き込むならば、初期費用やその管理は、水道よりもかかりそう。ちょっとした生活用水を使うために、井戸から水をくみ上げる作業も、作物を育てたり電気の代わりに薪で火をおこす作業のようには心が弾まない。それが寒い冬場ならなおさらだ。だから水道水を使わない生活については慎重に判断する必要がある。

そして、この家をあきらめた理由の一番は、匂い。
那須で家を探すとき気にかけていたことに、匂いの問題がある。これは田舎に住むときにあらかじめ考えておかなければならないことのひとつだ。近くに畑があれば、家畜の糞を肥料にしているかもしれない。近くに牧場があれば、牛舎からの匂いが風にのって運ばれてくる。どんなに素晴らしい場所でも、それらの匂いは都会でしか生活したことのない人間にとっては、耐え難いとよく聞く。

この家を歩いてほどなくして、まさにその匂いを鼻に感じた。それもそのはず、2軒隣のお宅に1頭牛がいたのだ。那須高原には酪農業を営んでいる人がたくさんいる。しかし芦野のような里山には広大な牧場などないから、近くに牛はいないと勝手に思っていた。しかし芦野も昔はあちこちの民家に牛がいて、今でもほんのわずかに残っているらしい。確かに耕耘機が登場する前は牛が畑を耕していたんだから、今でも里山に牛を飼っているお宅がいてもおかしくない。この場所が日常的にどのくらいの匂いを感じるのか不明だが、避けるべきかなと考えた。

自然と寄り添う家に再び命を

秘密の花園を後にして、さまざまな空き家を見てまわった。目の前に畑が広がっていて、縁側で山から昇る朝日や星空、雪原などが見渡せるであろう最高のロケーションの家。作業場になりそうなでっかい納屋と蔵がある家。小さな山の中の、竹林に包まれた平屋。空き家なのでもちろんキレイな家ではないが、どれも東京では考えられないくらいのびのびと生活できそうな家ばかりだ。残念ながら今回拝見した家の中からは、一瞬で心が決まる家には出会えなかったのだが、それでも想像以上に魅力的な家が多かった。東京での借家住まいが長い自分にとっては、広い敷地と蔵がある家の家主になるなんて、いきなり生活水準が上がったような錯覚に陥ってしまう。
今回現地を回ってみて感じたことをちょっと書き出してみる。

【里山家探しの収穫】

1.生活のイメージを現実的につかめた

頭で考えることも大事だが、実際の家を見て回れば生活のイメージをつかみやすい。理想は大きく膨らみがちだが、現地に行くことでどんな生活を送ることになるのか、頭が整理されてくると思う。

2.家族とのすり合わせができる

ヨメと自分の理想とする家のイメージはほぼ一緒だと思っていた。しかし実際に家を見て回ると、結構イメージが違うことがわかった。これからはヨメの理想が頭の中に入っているので、ひとりのときでも家を探せる。

3.里山の地勢を知ることができた

自分たちの住みたいエリアの地勢が、少しずつ蓄積されてきている。集落の名前を聞けば場所がイメージできるようになれば、地元の人と話をするときも役立つのではないか。

空き家を紹介してくれた友人には本当に感謝しかない。彼が紹介できるのは、この日見て回った家だけだが、今後も何か動きがあれば教えてくれるだろう。
さて、今後どのようなご縁から空き家と出会えるか不明だが、気長に探していくしかない。
妥協だけはしたくないから。



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